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ピルモ 7

  1. 私小説
2026/10/04

娘が生まれてから10日が過ぎた。3つに絞った名前の候補からフラワーが選んだのは、ピルモだった。フラワーが選んだのだから、それで良かった。名前を呼べることは素晴らしい事だった。卵ちゃんや赤ちゃんと呼ぶことはザックリし過ぎて味気ない、ピルモと呼べる事をマーバロンもフラワーも噛み締めている。

ピルモはハーフだからなのか、我々の種族ほど肉体的に弱々しく無い。初めから手脚をバタつかせていたし、鳴き声もひ弱ではなかった。さらにフラワーと2人で会話していると、じっとその様子を見聞きしているようだ。フラワーに小さな頃はどうだったと聞いても「そんな100年以上前のことなんて覚えてる訳ないでしょ」と一蹴された。ある日ピルモが俺を見て「ダーイン」と言った。それは確かにそう聞こえた。すぐにその事をフラワーに伝えた。「ピルモが俺のこと見てダーリンって言ったんだよ」ナンシーやテフテフ、ロボコンやマザーと話し合い、これからフラワーにはピルモの前ではパパと呼んでもらう事にした。フラワーの事もママと呼ぶことにする。教育に関してAIを搭載している3機とマザーは張り切っているようだが、英才教育のような押し付けは望まないとだけ伝えた。発達はとても早いようだし、元気だから心配は無いが、たった一つ我々とは大きく違った所がある。それは、ピルモにはシッポが生えていることだ。「そういえば、私も昔、シッポが生えてたと思う。」フラワーはそう言った。「えっ、今生えてないじゃ無い。何で!」「大きくなったら勝手に抜けた。」「そんなことあんの?」「あったのよ」「抜けた時、痛くなかった?」「ある日、あんまりシッポが動かなくなって来てさ、そしたらスポンって。全然痛くなかったよ。」「まぁ、それならいいけど。」「けっこう便利だったんだけどなぁ。シッポでコップ掴んで飲んだり、ぶら下がったりしてたと思う。」「ええっ、なんか羨ましい。俺もシッポがほしかったな。」「アタシも残念よ。」ピルモが泣き出した。フラワーはオッパイよオッパイと言ってベビールームにかけて行った。マーバロンは何も出来ないが、ベビールームに歩いて行き、フラワーがオッパイをあげている背中を見るのが好きだった。お腹が一杯になるとまたピルモは眠ってしまったようだ。「オムツは俺が替えるよ」ナンシーやテフテフに教わって替えられるようになった。あまりしてやれる事はないが、出来ることはやろうと思っている。「ダーリン、替えのオムツにシッポが出せるように穴を開けといて。」「うん、わかった」早速取り掛かった。

起きているときのピルモは何にでも興味を示しているようだ。驚くことに、目は見えている様で動くものを目で追っている。それに、誰かが近づくと、声を発する。俺が近づくと「ダーイン」といい、フラワーが近づくと「ウラワー」という。さらに驚くのはとナンシーとテフテフはそのまま言えることだ。みんな面白がって、「ピルモ」と呼びかけてから、自分の名前を覚えてもらおうと、躍起になっている事だ。jjはまだうまく言えないようで、「イェイ、イェイ」と言っている。又それをみんなに揶揄われて、最近はイェイ・イェイと呼ばれている。チョンはピルモを前に、ゆっくりと自分を指さし、「ちょぉん・ちゃぁん・ちゅぅん、」と繰り返している。しかしそれもヨン・チャン・ユンとピルモに言われると「ちがう・ちがう。ちょぉん・ちゃぁん・ちゅぅんと繰り返し、そのうち簡単だったのかチョンを見て「チガゥ・チガゥ」と言い出した。チョンはまずいと思ったのか、頭をかいて部屋を出て行った。次のデルキャンプはあっさりとキャンプと呼ぶようになった。本人も「まぁ、デルはいいか」と納得している。シューリッツもリッツになった。笑ったのはタケチヨだった。ピルモはタケチヨをタケチョと呼んだ。わずかな違いだが、みんな、タケチヨよりタケチョがいい!と言い、jjは「何ならチョでもいい」などと言い出す始末だった。ピルモはみんなを笑顔にした。

ある日、フラワーが「今、ピルモは第一形態なの」といった。「ピルモが第一形態ってどういう事?」と聞き返した。「そうね。簡単にいうと赤ちゃん期ね。それは環境を学習しているの。見る事、聞く事、匂い、味覚、触覚のような五感と気圧やまだ解放されていない能力の点検のようなことをいろんな感覚を使って学習しているの。」「教えなくても?」「そうね。でも教えている事もあるわ。」「どうやって?」私は脳内に繋がれるでしょ、押し付けてはいないけど、睡眠学習みたいなもんよ。マザーと3機の実働AIと話して、ピルモ自身の能力を知る事と、いずれ解放される能力のコントロールの学習が主かな。」「フラワーと同じ能力が備わっているの?」「それだけじゃないのよ、私もまだすべての能力を把握したわけじゃないけど、私以上よ。だから、感情に流されずに能力をコントロールできるように、この時期も学習が必要なの」「第一形態っていつまで続くの?」「一年ほどね、ある日突然子供らしくなるわ!それが第二形態ね。それが10年ほどで、次の第三形態に入る、それが50年続いて、あとは最終形態ね。そこからは個体差があるからどれくらい生きるのか分からない。」「じゃあ、あまり俺が教えられることは無いなぁ。」「そんなことは無いわよ、どんな種族にとっても生きるという事は簡単ではないわ。それにダーリンは大切なことを教えてくれたわ、独りじゃないって素晴らしいは、ほんとに。」

子育てをしている俺とフラワーにとっては、毎日が新しい発見で新鮮だったが、ボールザイオンのメンバーはそろそろ仕事に向かいたいようだ。jjとシューリッツはシードダイヤの鑑定と研磨があり、時間を費やしているようだが、デルキャンプとタケチヨは退屈しているようだ。チョンはマシンやドロイドの整備、開発に勤しんでいる。一度みんなを集めて話さなければと思い声をかけた。「シードダイヤはjjとシューリッツのお陰で精製、研磨が進んでいる。だがダイヤは売らなければならない。そこで販売先の開拓をデルキャンプとタケチヨ、テフテフに任せたい。どうかな?」「俺、ダイヤの販売なんてやった事がないよ。出来るかな?」「デルキャンプ。誰でも最初からできる訳じゃないよ。自分の可能性を広げるためにもやってみないか?今回のリーダーはテフテフだから交渉の進め方や準備、今後の取引の継続に至るまで勉強だと思ってやってみてくれ、頼む。」「俺は飯炊きだけど、何すりゃいいでゴフ。」「タケチヨ。確かにお前は飯炊きだが、俺たちは何をやっている?採掘から鉱物を売るまでが仕事だ。だが、鉱物を発見して、それを掘るために時には権利を買い、交渉をして、どうやったら最短で掘り出せて、販売先を見つけ、取引をして売るのか、それ全てが俺たちの仕事だ。タケチヨもメンバーとして一通りの仕事は理解しておいて欲しい。」「キャプテン、わかったでゴフ。俺も一通りのことがわかる様、勉強するでゴフ。」

予定通り販路開拓のため三人がミネラルロードの西の拠点ザルフ星団に出て行った。今度は販路開拓のみという事もあり小型の船、エンビに乗ってもらった。交渉期間は約2週間ほどになるだろうか?テフテフ達には、先ずはゾークの店、クラップストーンに行き、ゾークに会って情報を集めろと言っておいた。ダイヤを全て持ち出されたキューマが何か横槍を入れてくるかも知れないのでそう言ったが、採掘の権利を買い、自由に掘っていいと言うお墨付きももらったので、何も非は無いが、気を付けるように伝えておいた。ダイヤはもうシードではない。サイズ、透明度を分類し全てをブリリアンカットの58面でカットに仕上げている。10段階のサイズ展開だが、先ずは5分の1の量を持たせてある。テフテフにはサンプルだけ持って交渉に当たれと指示しておいた。デルキャンプには荷が重かったかと思ったが、本人は意外とやる気だった。デルキャンプは生粋の鉱夫で、まだサイゾウが生きている頃、惑星ジュラフに立ち寄った。この星は宇宙で最も知的生物の活用が多いカンラン石(オリビン)が大量に採掘できる星として発見された。マグネシュウムと鉄のケイ酸塩鉱物で、酸素の生成、液体酸素に変換してロケット燃料の他、揮発性物質と組み合わせて水を作り出すなど生物にとって欠かせない鉱物だ。その星で鉱夫をやっていたのが、第七世代のデルキャンプだった。第五世代までは腕は4本だったそうだ。この星で鉱夫として生まれ、鉱夫として死ぬ、それがデルキャンプの運命だった。サイゾウはいい鉱夫だと言った。それだけが耳に残りサイゾウが亡くなってから再びこの星に降り立ち、夢を語って仲間になった。

ピルモは抱っこを嫌がるようになり、床に降ろすとよろけながらも歩くようになった。ピルモを見ていると我が種族のなんとひ弱な事か・・。4,5日もすれば走り出しそうだ。最初は混乱していたパパとダーリンはフラワーが脳にアクセスしてピルモからはパパ、フラワーからがダーリン。ママとフラワーも同様に教えたようだ。すると次にピルモはキャプテンと呼び、またフラワーが介入して、丁寧に対応している。ある日マーバロンはピルモと昼寝をしていた、眠り込んでいるとフラワーに体をゆすって起こされた。「どうしたの?」「気がつかなかったみたいね。」「・・何が?」「あなたが寝ている間にピルモがあなたの脳にアクセスしてたのよ!」「ええっ、本当に!アクセスしてピルモは何をインプットしたの?」「そうねぇ、何か特別な事を引き出そうとしてた訳じゃ無さそうね。あなたが何をしているのか、どう生きてきたのか、そんなことよ。」「恥ずかしいな、勝手に知られてしまうのは。」「そうね、でも他の誰でもなく、あなたの人生を少しのぞいてみた事を私は良かったと思っているわ。」「そうかな。」「パパがどう生きてきたのかは大切なことだと思うわ。」フラワーにそう言われて嬉しかった。ピルモが俺に興味を持ち、そうしてみたいたと思った事だ、胸を張れるほどの人生では無いが、恥ずべき人生でも無い、それは受け入れることにした。