目覚めたのは5分前だった。起床時刻と出発を意識してか、3時以降は何度も目が覚めた。身支度を整え、そそくさと出発した。5時間半の運転で八方尾根駐車場に着いた。車中はワクワクして、眠気などみじんもなく、安曇野まで来たが、白馬の峰々が見えた瞬間はテンションが爆上がりだった。早速チケットを購入してゴンドラに乗り込み、リフトを乗り継ぐ。”見えた”!右にはガスで全貌は見えないが、雪化粧をした白馬三山がそそり立ち、左には鹿島槍の吊り尾根と五竜岳の急峻な黒い岩肌に斑に雪がついている。その向こうには爺が岳
であろうか、山頂をのぞかせている。リフトの終着点である標高1850mにある八方池山荘が今夜の宿だ。チェックインを済ませ、部屋に荷物を押し込み、身軽になって、明日に本番に備えて試登に出かける。八方山を超えて、八方池までの道のりはガレ場からざれ場へと変わり、岩陰には雪割草、立山リンドウ、ミヤマキンバイと思しき花々がそこここに、可憐な姿を見せている。
次第に雪道も現れ、溶け始めた雪はグズグズの質感で、足元が覚束ない。今日は、全国で最高気温の予想通り、安曇野高原でも34度の気温!雪も腐るわけだ。
八方池も雪に閉ざされ、写真映えする逆さ白馬岳?逆さ不帰の剣?は残念ながらまたの機会だ。八方池を過ぎて急斜面まで足を延ばしてみたが、どうやら上はタップリと雪がありそうだ。あわよくばアイゼン無しでもと思ったが、アラウンド3000mはそんなに甘くなさそうなので、明日はとりあえずアイゼンをしょっていかねばならない。ここのところ休日は雨続きで、足が萎えていたので、この登行はいい運動になった。明日の本番に差し障るほどでもないが、いい汗をかいた。日差しも強いが、ここは20度くらいだろうか?快適そのものだ。景色も十分に楽しんだので、ゆっくりと降りることにする。まだ、凍り付いた八方池の上を雪を踏みしめ、雪遊び気分で降りて行く。ここまではスニーカーで登ってこれるので観光客も多い。転がるように八方池山荘まで降りてきて、山荘のテラスでビールを開ける。うーむっ!美味い。
しばらく、今日の写真を眺めたり、山行の出来事を覚書しながら過ごした。ゆったりとした時間が流れて、夕暮れ時に差し掛かった。しかし、今だにリフトで登ってくる人がいる。どうやら外国人のようだ!リフトの管理業者のおじさんが、「it’ the last one at 16:30 ok?」「シックスティーンサーティ」わかった?外国人オーケー・オーケーなどと騒ぎながらやり取りしている。だが、案の定というか、自分勝手というか、3分前になって最初の外国人が下りてきた。6名だったが、降りてきたのは3名。おじさんは大声で怒鳴るの!あと3分だよ。外国人はスマホを取り出し、何かは分からないが早口でまくしたてている。その16:30になった!おじさんはぶち切れて、リフト止めるよ、歩いて下山しろ!!!!さらに3分過ぎて激怒している。外国人「まってまって!もう見えてる、ほらほらあそこ」”おじさん”は、「ハリーアップ、ハリーアップ」と叫んでいる。その遅れている外国人は、お腹の突き出た、押し出しのいいおっさんだったが、ソーリーでも、すみませんでもなく、わりーわりーといった感じでリフトに背中を預けて降りて行った・・・
おじさんはなおもブツブツと言いながらも、あとかたずけに勤しんでいる。その様子を見ていた僕にも、やっと本当の静かな時間が訪れた。夕日を浴びた五竜岳や鹿島槍ヶ岳、白馬三山も気温の低下とともにガスは谷に降りてしまい、美しい稜線を連ねて伸びている。夕食後、明日の朝食は弁当に変更してもらい、早朝の出発を告げておいた。今夜の宿泊は6名ほどで、各自1部屋ずつをあてがわれた。別に相部屋も厭わないが、やはりプライベートが確保されているのは気遣いがなく、うれしい。真っ暗になってから、外に出てみた。やはり今日は夜になっても気温は高いようで、どこかの山岳写真に写っているような降ってくるような星空ではない。しかし、それでも捨てたもんじゃないと思ったのは、夜空にはこんなに人工衛星が飛んでいるのか!という事だ。北から南に、南から北に、西から東に、それはそれは沢山の人工衛星が飛んでいたことだ。まだ、動いているものは肉眼で分かるが、静止衛星もあるだろう。僕は思った「やばい!かなり見張られている。ごめんなさぁーい!あんなことやこんなことをしでかして。ご存じかと思いますが、見逃して下せえ、お代官様ぁ」
さて、明日からの登山記は次回。続きをお楽しみに!