ロッジを過ぎて林道に入る。登山口近くの雪は1mを越えている。駐車場のないこの山域は冬場、駐車スペースを確保するのに苦労するが、前回車を止めた場所は、幸運にも空いていた。登山の準備をして歩き出すと、一台の車が下りてきた。これから登ることを伝えると、頂上は20cmの新雪が積もっていると教えてくれた。この人は、毎日のようにこの山を登り、写真を取っている方で、登山アプリに記録のように投稿している地元の有名人だ。朝5時から山に分け入り、吹雪の中、日の出の撮影に出かけていたようだ。トレース(踏みあと)を使わせていただきますと声をかけ別れた。
300mほど進むと、もう除雪は行われていない。ここからはスノーシューを装備して、トレースを追いかける。いくらトレースがあるといっても、今朝まで降っていた新雪の深雪に足を取られる。それでも、10分ほど歩くとそのトレースは林道から外れ、急斜面の山に入る。登山道ですらないこの山に、一本のトレースがついている。「よくこんな所から登るなぁと感心する。」樹木に日が差して、溶けだした雪があちこちで”どさり”と降ってきて、そのあとは日差しにきらきら光るスノーシャワーが舞い落ちて、首筋やザックに降り注ぐ。急登にあえぎながら、無心になって足をひきずり上げる。針葉樹の森を抜けると日差しが降り注ぎ、照り返す雪の光はサングラス越しにもまぶしい。ここで一息入れる。気温は0度前後でも、ほてる体に耐えきれず上着を脱ぐ。冷気に相殺された体には心地いい。まぐボトルに入れてきたココアはまだ十分に暖かく、その甘さも全身がよみがえるように染み渡る。葉を落とした木々に変わったここにはもう、スノーシャワーもない。あと200mほどの向こうが頂上だ。
最後の斜面を登ると、緩くなった傾斜の向こうに広々とした山頂の景色が広がる。山頂というより雪原のようだ。
頂上の雪原は、右足を上げれば左足がうずもれ、左足を上げれば右足がうずもれるような状態でトレースがなければ地獄の歩行だ。積雪はゆうに170cmはあろうか。トレースを付けていただいていた、地元の写真家の人には頭が下がる。山頂小屋に潜り込もうと覗いて見たが、中まで雪が吹き込みベンチらしき物も埋まっている。山頂は日当たりはいいが、紫外線が強く、少し風もある。しかし、小屋は風はないが日陰で寒い。選択には悩むところだが小屋に潜り込む。どうにかこうにか雪をかき分け腰掛けるスペースを確保して昼食に取り掛かる。今日はシチューを詰めてきた。ふたを開けると湯気が上がり、まだ熱々のシチューをいただく。「美味い!」おにぎりも、卵焼きをはじめとするおかず類も冷たくないが、日陰の小屋は暗くあまり美味しそうには見えない。じっとしていると、足先から冷えが昇ってくる。掻き込むように昼食を済ませ、小屋を出て太陽を浴びると、ぽかぽかと温かい。
遠くにはスキー場のゲレンデや氷ノ山の山頂だろうか、静謐な景色が青空のもとに見える。青黒く澄んだ空を見上げれば、吸い込まれそうな感覚に陥る。前回のモノトーンな世界とは打って変わって、これが望んでいた、千丈ブルーだ。気を良くして、スノーシューのビンディングを締め直し出発する。
深雪の下りは楽しいし、楽だ!ズブズブと埋まっても、下りの傾斜は足を前に出せばどんどん進む。むしろ積極的に新雪に踏み込み、いい”おっさん”がはしゃぐように駆け降りる。下りの斜面に現れたのは、かわいいスノーモンスターたち。海獣のマナティーやゴーストバスターズのマシュマロマンのようなふっくらしたスノーモンスターが現れた。
振り返れば自分がつけたトレースが尾を引いている。林道をトラバースして樹木の間を縫うように下り駐車スペースに到着。4時間30の工程だった。鏡で顔を見れば、雪焼けで顔が赤らんでいる。こりゃ、帰ってさっそくお手入れをせねば!やれやれ。