- モノトーン一色の世界で、自分の着ている防寒ジャケットのマンゴーオレンジだけが異質な色彩を放っている。ログハウスの有るここまでは除雪車が入っていて、車を乗り入れることが出来た。背中にスノーシューを括りつけたザックはいつもよりやや重い。普段は持たないダブルストックはロングタイプでもある。1キロほど歩いて深くなってきた雪に、スノーシューを履こうかという事になり、足を突っ込が、友人は素っ頓狂な声を上げ、あたふたしている。スノーシューのビンディングが劣化してベルトがちぎれたと言う。やむなくそのまま靴で登ることにする。いつもは前を歩いてくれる友人の代わりに自分が先行することになった。友人は深雪に足を取られ、気を抜くと靴が雪にめり込み登行に難渋しているようだ。僕は僕で2年ぶりのスノーシューに足裏がバタバタしている。それでもしばらく登行を続けていると、歩行にリズムが出てきて軽快に進めるようになってきた。
今日は雪がぱらつき、空は鉛色で周囲は白一色の単調な色彩の中の樹林に動くものが見える。それは木々を回り込む様に滑り降りてくる。”えっ”スキー履いてる?ゲレンデでもないこの山中にスキーヤーがいる。連れの女性はスノーシューを履いてツリーの林を駆けるように降りてくる。こんにちは!とあいさつを交わすが、また林の中に一本のシュプールと象の足跡を残して消えていく。「あのスキー担ぎ上げたの?」 「いや、登り用にシールが貼ってあるんじゃないの?」ポカンとして、キツネにつままれたようなモヤモヤした気持ちで見送る。山の楽しみ方は様々なようだ。ときどき、彼らの残した踏みあとが残っているが、先行者は彼らだけのようだ。
ツリーの林から尾根道に出ると、聳立した木々が霧氷と化し佇んでいる。このあたりになると雪は70cm以上にもなる。ロングのストックも深く突き刺さり、新雪部分に足を下ろすと、スノーシューを履いていても10cmくらい潜る。
最後の登りに息が上がるが、ストックに力を込めて、一歩また一歩と歩みを進める。
遠くに海が見えるが、やはり鉛色の暗く霞んだ風景と春にはキラキラと輝いていた水田も畦を残して真っ白だ。風を避けられるところのない頂上は吹きっさらしで、顔に当たる雪のつぶては痛いほどだ。こんな所では飯も食えん!という事で、写真を数枚とり、ほうほうのていに下山を開始する。
下りは楽で、ワシワシ降りて行く。林に入り分岐を左へと登ってきた道を進むと、風はぴたりと止んでいた。ここにしようという場所で、雪を踏み固めて、腰を落ち着ける場所を作る。ストックを雪に突き刺し、ザックを下ろし、手袋を外し、マンゴーオレンジの防寒ジャケットも脱ぎ捨て、雪面に尻当てを引いて、さあ飯だ!ランチポットに入れてきた鍋スープはまだ熱々のままで、冷たいおにぎりによく合う。おいしさにホッと一息ついて空を見上げると、少しだけ雲が割れて青空がのぞく。この山域の冬山には何度か来たが、あまり天気には恵まれない。いつも無彩色の中をあえぎながら上り下りをしている。ユーチューブや登山のブログにはスカイブルーを背景に雪に覆われた山頂や尾根道の動画や写真の投稿に、(武奈ヶ岳をバックに澄み渡った武奈ブルー)などの投稿を見る。しかし、冬の雪山シーズンにそう多くの青空が望めるわけもなく、グレーな空がほとんどだ。だけど、やっぱり青空をバックに真っ白な山頂や霧氷の中に身を置いてみたい。鍋塚ブルーか、大江ブルーか、鳩が峰ブルーかは分からないが、懲りずに、また訪れようと思いながら、スープをすすり上げる今日この頃である。