やれやれ、毒キノコを5キロも取ってしまった!その日はキノコ狩りに行こうと、張り切って、出かけた。
去年の今頃、いいキノコをたくさん取った。ムキタケというそのキノコは、淡い黄色のキノコで、そこここの倒木や、立ち枯れの木に、連なるように生えていた。沢山とれたので正月にもお鍋の具材として、重宝するとともに見事に美味かった。
さて、今日も 元谷の水無沢を越えて、林に分け入った。大山の紅葉にはまだ早く、色付きかけた木が、ちらほらある程度だった。”う~む”ちと早いか?去年の今頃は紅葉の盛りだった。今年の大山の紅葉は2~3週間くらい遅いのではないだろうか。
だが、分け入ったからには、手ぶらでは帰れん!何とか手土産を持ち帰らねば。しかしこの日は午後からは雨の予報、すでに、強い風に交じって、時折雨が頬を打つ。いかんいかん、これは急がねば。などと独り言ちて、歩みを進め、分け入ること40分。倒木に張り付いた苔の上に、ポコポコと白いマッシュルームのようなキノコが出ているではないか!1個引き抜いてみる。なんだかいい香りがする。これはいけるのではないか?3~4cm程度のそのキノコを20個ほどむしり取り、更に登山道わきの倒木に目を凝らす。しばらく進んだ先に、太く、立派な倒木があった。その倒木にはびっしりとキノコが生えていた!瞬間 ”美味そう” そう思った。たっぷりとした傘に、肉厚、テラテラとした艶、とんでもなく美味そうなキノコだ。ぼくは、 ”大事なこと” を忘れて、キノコを採り始めた。まず、1枚とってみた。ずっしりと重い、これは食いでがあるぞぉ、次々と袋に詰め込み、アッという間に袋はいっぱいになった。その袋をリュックに入れてみたが、なんだ、これはと思うほど重い!ゆうに5キロはある。背負ってみた。肩、膝と腰にその重さがのしかかる。今日は山頂は目指さないが、夏山登山道の合流点までは行こうと決めていたので、歩き出す。通常の登山の荷物に加え、この5キロのキノコの重さに背骨がおかしくなるんじゃないかと思いながら、合流点まで、何とか歩き切った。
だが問題はこの重さだけではなかった、実は今日は登山靴を忘れてしまった!薄い靴底のこのアディダスで行くのかと、出発時点で思っていたが、何とかやれるだろう、頂上にはいかないのだから、と甘く考えていた。いよいよ下り始めるが、デコボコでゴロゴロした道は、想像以上に歩きにくい。石を踏めば痛いし、アディダスはよく滑る、慎重に下っていくが、覚束ない。
しかし、やっとの思いで車まで帰り着いた。あとは、このキノコが何というキノコなのか?食用かどうか?なのだが・・・我が故郷には強い味方がいるのです!日本きのこセンター菌蕈研究所(日本で唯一きのこ研究をしている)。ここへ持ち込めば、どんなキノコも食用か毒キノコか等を教えてくれるのであります。(事前に予約の必要アリ)
早速持ち込んでみた。・・・・・マッシュルームのようなキノコはホコリタケ!(食用)が しかし、5キロのキノコは全て、毒茸です!いま日本で一番食中毒を起こしているツキヨタケですと、キッパリ言われた。ツキヨタケは主に、嘔吐、下痢、まれに痙攣、幻覚を起こす、恐ろしいキノコです。
正直、脱力した!通常の登山用の荷物(かっぱ、弁当、水、保水液、行動食、救急用具 等々)に加え、5キロ超えのキノコ!が全て廃棄することになった。俺の努力は何だったのか・・・
その翌日から完全に腰をやってしまった。1週間も腰を”いわして”しまった!仕方が無い。いい勉強をした。2度と間違えないほどツキヨタケを見た。たぶん、もうツキヨタケを取ることは無いだろう。補足だが、判別方法を知っていた。そう ”大事なこと” を忘れていたのだ!ツキヨタケは、軸の部分を割いてみることだ。割いてみると、軸の中心が黒くなっている。2~3枚割いてみる。そうすれば必ず黒い軸の物がある。それは間違いなくツキヨタケだ。僕はそのことを知っていたが、浮かれていた。調子に乗って見分もせず、美味そうなキノコが見つかったと、喜んでさえいたのだ。
だけど、また 性懲りもなく僕はキノコを採りに行くだろう。今までもたくさん見つけた(舞茸、なめこ、ムキタケなど)キノコたち。自分で採取すれば喜びも、美味さも格別だ。それに、こんなことを言っては何だが、登山者はあまりキノコを採取しない。登山道の脇につやつやのピカピカのなめこがあったとしてもだ。世の中の食中毒の多発もあるのだろうけど。今は、いや今後はますます、天然のキノコは恐れられ、見向きもされなくなるのかもしれない。これはチャンス!かもしれない。ただ間違えなければの話だが。
やれやれ、ツキヨは重くて怖いのだ。