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藪と急登と自販機と!

  1. 春夏秋冬
2024/06/28

先日、朝方までの大雨の中、現地は9時から晴れるとの予報で、昨年から狙っていた山に出かけた。 思った通り晴れていて(これは幸先がいいぞ! )登山口の狭い駐車場でいそいそと登る準備を始めた。 登山靴は泥濘を警戒してミドルカットの靴にスパッツ。 暑くなりそうな予感に半そでTシャツにアームカバーと、いつものヘンテコな帽子だ。 コースを4時間の予定で予想しているので、今日は弁当は車において行こうと決めた。

歩き始めてすぐ、木漏れ日の中に、川床木地屋橋が見えた。 雨の影響も無かったのか、増水もせずさらさらと流れている。 橋を渡り切って笹薮に突入して、すぐに後悔した。 膝、腿、腰にかけて濡れた笹でビショビショになり、下着も言うまでもない! やっと藪を抜けたところが分岐で、少し広くなっていたので小休止してボトルの水をあおる。

分岐を左に折れ、さらにその先を右へ、今度はブナの森を軽快に歩く、気持ちのいい森だ。 小川を渡ると、そこからが急な斜面になる。 予想はしていたが、それよりもかなり手ごわそうなごつごつした岩と、それにへばりつく苔と浮石に緊張を強いられる。 摑まるところのない大きな岩には右か左かと迷う。 こんなにも息が上がるのかと思う斜面に何度も止まり、息を整えるが、平らなところが全くない。 せめて20センチと思うが、まったくと言っていいほどに見当たらない。 数メートル登り、休み、ボトルの水をあおりを繰り返し、あの先が、尾根道かと何度も思うが、期待を裏切られる登りが続く。

1000mの急登をようやく上り詰め、尾根道に出た。 しかし、新たな不安が頭をかすめる。 もうボトルに水がわずかしかない。 ここからまだゴジラの背を越え、甲ケ山の頂上、矢筈の小槍、矢筈ケ山頂上、大休峠を回り、長い道のりを行かなければならないが、ボトルの底には1センチ程度の水しか残っていない。 まずい、これはまずいぞ。 前日の雨に濡れた、滑る岩と急な斜面に緊張を強いられ、足の指も攣りかけている。 しかし、今更この急な斜面を降りることなど考えられないし、まだ頂上すら踏んでいない。 とにかく、残りの水は頂上についてからだ。 と決めて、ゴジラの背に向かって歩きだす。 両側の切れ落ちた岩の道が目の前に広がる。岩の上にはピンクのアジサイの仲間と青空が迎えてくれた。ゴジラの背の向こうが頂上だ。ここは日が当たり岩も乾いていることを確認して、岩の道にとりつく。もちろん落ちれば単独行者の僕には助けてくれる人などいないが、緊張で体を固くすれば余計にバランスを崩すことになりかねないので、慎重かつ柔軟に一歩を踏み出す。・・・・渡り切った。

すぐ横には霧あけの大山も見える。

先を急ぎ、狙っていたその頂に立つことができた。

1338mの甲ケ山。残りの水を一口だけ飲み、行動食のナッツとドライフルーツを食べながら考えてみた。ザックにはコーヒーを飲もうと思って保温の水筒に150㎖ほどのお湯があるだけだ、これは、最後の頂上の矢筈ヶ山に取っておこう、弁当は車に置いてきてしまったが、後はキャラメルと塩飴でしのげる。矢筈の頂上で湯をコップに入れて冷ましてから呑んで、そこからはほぼ下りの大休峠を回り込んで車を置いた登山口へ下ることにしよう。ここまで3時間15分、慎重に慎重にと思って登ってきたが、あまりの時間のかかりように、少しガッカリした。梅雨の晴れ間に登る山ではなかった?いや登るコースではなかった!これ以上考えても仕方がないので山頂を後にする。が、またしても難所だ、甲から矢筈への下りは結構な崖になっている。恐る恐る踏み出だしたが、ロープもない崖だ。コースを迷わないよう赤いスプレーが最適路を示す。幸い南側斜面で崖は完全に乾いていることにホッとした。ようやく崖の下まで降りて振り返ると、その草木も生えない角度の岩壁にため息が出た。とにかく無事にここまでは来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

上り下りを繰り返し、矢筈の小槍の取り付きに来たが、この登りにも汗が噴き出た。小槍の頂上で完全にボトルの水は尽きた。仕方がない。 小槍を降りて振り返ると小槍の頭とさっき降りてきた甲の岩壁が映った。どちらも、青空に突き出している、いい山だ。結局、矢筈ヶ山の頂上に着いたのは、登り始めて4時間がたったころだった。カップにカフェオレの粉末を注ぎ、お湯を入れる。冷たい水が飲みたかったがどうしようもない。ぬるくなるまでキャラメルを噛んで待つしかなかった。コース、水の分量、時間配分とすべて見誤った。雨でスタートも1時間遅らせたが、下山すればトータル6時間以上になるだろう。天気が完全回復してくれたのがせめてもの救いだ、気温は終始20~22度と、少し暑い。カップのカフェオレを飲み干し、下山を開始した。大休峠の小屋を過ぎるころにはすでにのどが渇いていた。どうしようもないことは考えてもしょうがないので、ひたすら早く、慎重にということだけ考えて進んだ。この道は太古の昔からある道らしく、石畳がずっと続いている。またその苔むした石畳がよく滑る。どんどん喉も乾く。速く速くと気がはやるがいつまでたっても登ってきた分岐につかない。ようやく分岐についた後もこんなに長かったというほど登山口は遠かった。やっとの思いで着いた車で、よろよろと泥だらけの登山靴を脱ぎ、履き替える。もうこのころには口の中がカラカラで頭はボーッとしていた。しかし車につけども、水はない。帰宅する方面に行くか、大山寺方面に行くか悩んだが、大山寺方面を選んだ。車を走らせ10分。あった!真っ白な自動販売機の前に車を止めたが、サイドブレーキも財布を取り出すことさえ、億劫だった。小銭が取り出せずイライラもした。ガコンッとペットボトルが落ちてきて、青いキャップを回し開けるや否や、一気に半分ほどを飲み干した。さっきまでの口の粘着きも忘れ、はあーっ と声が漏れた。こんなに自動販売機が有難く、立派に見えたことは無かった。もう一本水を買い、景色のいい場所まで移動した。全部は食べきれなかったが昼食も取った。

改めて今日の6:20分の山行を振り返りながら考えを巡らせてみる。

まあ、いいかぁ、今日の山旅も面白かった。

最後のご褒美に山頂から見えた、島根県の隠岐の島々が見えたことを記す。見えるとは聞いていたが、僕の人生の中で一度もその姿を見たことは無かった。見たい見たいと望んでも、なかなか見えるものでもなかった。雨上がりの澄んだ空気の中で、雲と海の向こうに浮かぶその島々は幻想的であった。望みがかなうなら、今度は隠岐から大山や、それに連なる、この山々を見てみたいものだ。